「何を描いているんですか?風景?〜風景画の現在進行形」
2018.10.2(火)~10.8(月)
最終日は17時まで
●出品作家
石本光男
越田博文
彦坂敏昭
民佐穂
ムカイヤマ達也
白濱雅也
水戸黄門はフランケンシュタインになって蘇るのか?
白濱雅也 Art Labo 北舟ディレクター / 美術家
北海道に移住してきて、自己紹介をする時、自分の職業について話す場面に出会います。そんな時、美術をやってます、絵を描いてますと言うと、何を描いているんですか?風景?人物?と判で押したように尋ねられます。この時、話し相手はベレー 帽をかぶって、イーゼルを立てて風景を描いているような画家を想像し、印象派のような油彩の風景画を連想しているのでしょう。そしてその念頭には美術 ≒絵画風≒景画のような図式が出来上がっているのではないでしょうか? 人々がどのような絵を好むかという調査では水辺のある田園風景が一番人気がある という話を聞きました。
とても人気のあるヒロヤマガタ、ラッセンなどの作品は点景として人物や動物がいるものの基本的には風景画のフォーマットとなっています。人々が風景に求めているものはなんなのでしょうか?人為と自然との調和、都市生 活と田園との調和、安息と自然との調和など、ここにはなんらかの形で理想郷が描 かれています。そこにあるのは水戸黄門のような完全予定調和の世界なのです。そ してそれを見たい、見続けたいという人々の根源的な欲望とつながっています。
現在進行形の風景画家達は、この予定調和を揺さぶります。 石本光男は古典的なスタイルのモチーフとしてトタン小屋を「発見」し、近代絵画 固有の抽象性をそこに移植します。白濱雅也も調和を失った被災地の風景に物質の色彩や質感を縫合します。彦坂敏昭は風景の画像をPCによって抜け殻のように加工し、再度の彩色で風景を再生し、越田博文も風景を色彩や輪郭に分解して再生します。 民佐穂は通常の絵画の一部分のような極小サイズに断片化し風景に見立て、ムカイヤマ達也も割れたガラスのような絵画の破片を再度集積した「情景」を描きます。
ここには共通してなんらかの「解体」が関わっています。その執刀医はキュビスム から抽象絵画にまで至る近代絵画であり、その解剖結果によって発見された美やモチーフによって支えられています。解体後に再び息を吹き返す風景画、これらはま るで死体から再生されたフランケンシュタイン(の生み出した怪物)のようでもの ます。そして小説と異なり、彼は絶望することなく生き延びることができるのか、
美しい姿を得て愛され続けることができるのか、進行形の風景画には静かで不思議な高揚があります。
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